14年度の近畿圏市場を振り返る


中古市場全体の取引量は拡大、価格は弱含み続く

厳しい経済環境に住宅需要の先細り懸念強まる




●近畿圏の平成14年度中古住宅市場は取引量が増加する一方、価格の下落が収まらず需要の低迷が反映される結果となった。新築マンションも昨年末以来発売を手控える動きが急速に高まっており、着工数も分譲を中心に減少が続いている。

●雇用や所得など近畿圏のマクロ的な経済環境は厳しさを増しており、企業の景況感も悲観的な見方が強い。デフレの深刻化で売り・買い双方が弱含むなか取扱高の確保が急務となっており、新たな需要の掘り起しが課題である。



■中古マンション市場の動き


14年度の取引量は5.9%増


平成14年度に(社)近畿圏不動産流通機構に報告されたの成約件数は9,547件で、前年度比5.9%の増加となった。これはデータをとり始めた5年度以降で最も高い水準であり、9年度に底をつけてから毎年増加傾向が続いている。

増加する成約件数に対して新規登録件数は過去最低の34,974件となったが、前年度比はマイナス0.4%と10年度以降の減少傾向に歯止めがかかりつつある。市場における物件の供給力を示す新規登録件数は、成約件数の3.7倍の水準にあり、過去5〜6倍で推移してきたことを考えると市場での物件供給は縮小している。資産デフレが売却を手控える一因にもなっているとみられるが、市場での物件供給の減少は買主の選択肢を狭め、取引の低迷につながるものとして懸念される。


販売の減速目立つ新築マンション



一方、新築マンションの14年度発売戸数は34,382戸で前年度比18.9%の減少となり、大きく落ち込んだ。これは昨年11月以降発売を抑える動きが急速に広がっているためで、15年1月の73.6%減を最高に各月とも前年比で軒並み20〜40%もの減少が続いている。

市場への供給量は依然として高水準だが、モデルルーム来場者数の減少や契約歩留まりの落ち込みで契約率は70%前後まで低下しており、在庫を防ぐために期分け販売などで発売戸数を抑える動きが顕著になっている。



マンション販売に急速なブレーキがかかる一方で、政府による不良債権処理などの「集中調整期間」が16年度まで延長され、企業のリストラによる資産放出はこれから本格化するとの指摘もある。社宅などの売却により今後も大量供給が続くと予想され、15年(暦年ベース)の近畿圏の供給戸数は前年をやや下回る3万7千戸が見込まれている。

都心・大規模・超高層など好調なエリアや物件について販売の二極化が指摘されてきたが、大量供給が続くことでますます販売競争の激化が見込まれる。既に新築購入層の2〜3割は団塊ジュニアともいわれ、新たなニーズを受け止める必要性が高まっている。中古より立地の良い新築マンションも多く出回っており、流通市場でも新築マンションに対して中古住宅の魅力を高める提案が求められていると言えよう。


中古単価10年連続のマイナス



増加基調にある成約件数に対して、中古マンションの成約価格は落ち込みが続いている。14年度の成約u単価は21.5万円で前年度比マイナス6.0%と、9年度以降は毎年度6%以上下落しており、底値が見えない。5年度のu単価(43.6万円)に対し50.7%も下落し、この10年間でほぼ半値になったことがわかる。

一方、新築マンションu単価は14年度で41.3万円と前年度比0.2%の下落にとどまり、低価格化の動きは落ち着いている。落ち込みが目立つ中古単価に対し新築単価は過去10年で21.5%の下落に抑えられ、中古u単価の新築との格差率はマイナス47.9%と、価格差は5割近くに開いている。


成約価格は10年で約半値



14年度の中古マンション成約価格は1,502万円で前年度比6.2%の下落となったが、専有面積は69.8uでマイナス0.2%にとどまった。成約価格は過去10年で48.9%下落し約半値となったが、これまで一貫して広い物件にシフトしてきた取引の傾向は、ここ3年ほど足踏み状態にあり、価格の下落だけが目立つ展開となっている。


首都圏では、昨年から既に中古マンション価格の底打ち感が鮮明になりつつあるが、近畿圏の成約価格は一向に下落に歯止めがかからない。首都圏同様、築10年以下の築浅物件が増加し、価格水準が高い兵庫県下(阪神間)や京都市内の取引が増加しているにもかかわらず、成約価格が下落するのはマーケットエリアや物件属性を問わず幅広く物件が下落していることを物語っている。

近畿圏の売却損はバブル期をはさむ築11〜15年を中心に依然として拡大しており、(社)不動産流通経営協会の調査では買い換え層で含み損のある世帯は全体の8割に達しているとされる。取引量は堅調に推移しているものの、仲介の現場では商談の長期化など成約に結びつきにくい状況も指摘され、価格の下落を件数で補うには困難な状況が続いている。所得や雇用環境も他の都市圏に比べて厳しく、資産と所得の両面でデフレが進行する近畿圏では、需要の低迷が成約価格の下落となって現われている。


取引増の中心は兵庫県・京都市



14年度の中古マンション取引の増加は、兵庫県と京都市が中心的な役割を果たした。取引シェアは依然として大阪府下が3割以上と高いが、神戸市は13.4%で前年度比0.8ポイント拡大し、阪神淡路大震災後の復興需要が一巡して以来、6年ぶりに増加に転じている。阪神間を中心とする兵庫県下も18.1%で1.1ポイント増、京都市は8.7%で0.8ポイント増と伸びが目立った。

実数ベースでは大阪市や大阪府下も微増しているが、大阪府全体のシェアは5割を下回り、中古マンション取引をみる限り、首都圏ほど明確な都心回帰はみられない。奈良県や京都府下では取引自体も減少しており、厳しい市場環境のなかでエリア間の格差が目立つ結果となった。

■戸建住宅市場の動き


戸建住宅取引は1.9%増にとどまる



戸建住宅では、取引量にも厳しい状況が現われ始めた。14年度の成約件数は7,886件と前年度比1.9%の増加にとどまり、13年度から増加率が縮小した。過去最高となった中古マンションと異なり、件数も9年度の水準を超えていない。新規登録件数は減少傾向が再び強まり、14年度は45,939件と前年度比で5.4%の減少となった。

新規登録件数に対する成約件数は5.8倍の水準にあり、中古マンションに比べると市場での売り出し物件のボリュームは大きいが、やはり資産デフレなどの影響から、売却に踏み込めないでいる様子が見受けられる。

中古マンション上回る戸建価格の下落



戸建住宅価格は、中古マンションを上回る下げ幅を記録している。14年度の成約価格は2,252万円で前年度比8.1%の下落となり、金額ベースでは198万円の低下となった。9年度以降6年間にわたる下落が続いており、下落率は年々拡大している。地価の影響を受けやすい戸建住宅では、土地価格の下落が著しい兵庫県下の取引が増えたこともあり、弱含みの傾向が強くなったとみられる。

また、新規登録価格も下落基調を強めており14年度は2,616万円で前年度比マイナス5.6%と、やはり下落率は拡大している。新規登録価格と成約価格の乖離率は16.1%となり3年連続で拡大し、買い需要に対して売り出し価格の調整が追いついていない状況がうかがえる。


取引物件の住戸規模は横ばい



14年度の成約戸建住宅の土地面積は100.1uで、前年度比0.7%減と7年ぶりに縮小した。12年度に100u台となってからは横ばいの状況が続いている。同様に建物面積も14年度は92.8uと前年度比で0.2%縮小し、12年度以降92〜93u台が続いている。これまで成約価格の下落とともに住戸規模の拡大も進み、より安くより広いものが買われる傾向にあったが、ここにきて物件規模の拡大は足踏み状態で、低価格だけが志向される状況に変化している。

兵庫県・大阪府が取引のけん引役に

14年度の戸建住宅の取引件数は微増にとどまったが、地域別シェアには変化がみられた。取引が拡大したのは兵庫県下(15.4%)と大阪市(6.4%)でともに前年度比0.7ポイント拡大。神戸市も0.4ポイント拡大し8.3%となった。阪神間や大阪市内など価格水準の高いエリアでは、地価の下落が進んで相対的な割安感が生れたことが、取引の増加につながったと考えられる。一方、京都府・奈良県・滋賀県はいずれもシェアが縮小し、実数でも減少に転じた。

■四半期動向からみた15年度の見通し

需要低迷続く中古住宅市場



直近の15年1〜3月期(14年度第W四半期)の中古マンション市場は、新規登録件数・在庫件数とも増加し、在庫積み上がり局面に移行した。レインズデータでみる限り、成約・新規登録・在庫物件いずれも増加しており、近畿圏全体の件数ベースでは拡大基調にあるとみられる。

一方、戸建住宅市場は新規登録・在庫とも減少傾向が続き、中古マンション市場より停滞感が強い。1〜3月期の成約件数は前年度比で既に減少しており、このまま売り出し物件の低迷が続けば、年単位での取引量の減少も現実のものとなりそうだ。


中古マンション・戸建住宅とも1〜3月期の成約価格は前年比6.2%・8.8%の下落で、前の期より下落率が拡大している。価格の下落が加速している現状をみると、中古市場に対する需要の低迷がより顕著になっていると判断される。需要面について消費者の不動産購入意欲を示す購買態度指数からみると、買い時感は比較的強いもののその方向は一進一退を示し、実際に取引となった場合には雇用や所得などの外部環境の厳しさが障害を与えるものと考えられる。

新たな需要の掘り起こしが課題に



近畿圏では企業の雇用過剰感が根強く、完全失業率(2月)も7.2%と全国平均を2%近く上回る。今年9月までの中小企業の景況判断は「下降」が圧倒的で、賃金の減少や雇用不安など足元の景況感は一向に改善しない。民間調査機関の経済成長率見通しも横ばいで、民間住宅投資はマイナス予想が多く、15年度の中古市場も需要の低迷が続くと見込まれる。

今年度の中古住宅市場は、資産デフレによる供給サイドでの売却の落ち込みと、雇用・所得不安を背景とした需要サイドの萎縮といった両面で大きな不安が残る。今後は、外部環境の影響を受けにくい収益構造に向け、団塊ジュニアや高齢者など新しい居住ニーズに応えられる流通物件の創出が求められよう。■

(以上、社団法人近畿圏不動産流通機構より抜粋)

戻る
 


Copyright © 2003 all rights reserved by KeikagoEstate,Inc.